カジノ法案 (IR実施法案)によるデメリットは?反対派の意見などまとめ
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IR(カジノを含む統合型リゾート)を作ることで期待されるメリットは、外国人観光客の増加や雇用の創出による大きな経済効果です。
停滞している日本経済を活性化させるためには訪日観光客の増加は欠かせないポイントとなっており、だからこそ政府も審議見送りや廃案を何度も経験しながらも、なんとかカジノ法案(IR推進法案)を成立させたのです。
しかし、IR(カジノを含む統合型リゾート)の誘致は良いことばかりではありません。
カジノ法案が何度も審議見送りや廃案になったのは、反対派の意見がそれほど多かったということです。
カジノ法案やIRを導入することよる問題点、デメリットはなんなのかを知っておきましょう。
カジノ法案から懸念される3つの問題点
日本にIR・カジノができることによる懸念事項の中で、特に問題視されているのは「ギャンブル依存症」「マネーロンダリング」「治安の悪化」の3点です。
1.ギャンブル依存症の増加
日本でのカジノ解禁において政府や各自治体・国民の多くが懸念している点が、「ギャンブル依存症患者の増加」です。
日本では既にパチンコ・パチスロ等によるギャンブル依存症が蔓延していると言われており、日本でギャンブル依存症の疑いのある状態になったことがある人は3.6%。人数に換算すると約320万人にのぼります。
日本のギャンブル依存症がこれほど広まっている原因として、街中の至る所にあり、安金額から気軽に楽しめてしまうパチンコ、パチスロの存在が大きいと考えられています。現に、上記の調査でお金を使った対象として最も多かったのもパチンコ・パチスロでした。
このような状況で日本にカジノが出来ると、さらに依存症に陥る人が増加するのではないかと問題視されています。
現在、政府はカジノ解禁を機に、新たにギャンブル依存症対策に乗り出しています。カジノのためだけでなく、既存のギャンブルでの依存症患者のためにもしっかりとした対策をとることが望まれています。
2.マネーロンダリングの増加
マネーロンダリング(資金洗浄)とは、違法な手段(麻薬取引・脱税・反社会的組織の犯罪など)で得た資金の出所をわからなくさせ、正当な方法で得た資金に見せかけるという犯罪行為です。
カジノは古くからマネーロンダリングの場として知られており、【違法な手段で入手した資金をゲームに賭けて負けることで一旦カジノ側に移し、その後勝利し綺麗なお金として取り戻す】という方法で利用されてきました。
日本においてもこのようにマネーロンダリングの温床となるのではと危惧されています。
3.治安の悪化
カジノでは日々大金が動くことや、外国人観光客をはじめ多くの人が集まることや、その他の様々な問題点が重なることで犯罪が起こりやすくなり、治安が悪化するのではと問題視する声が多数あります。
特にカジノ候補地となっている近隣住民から治安の悪化を心配する声が多く挙がっています。
海外のカジノ問題:韓国・カンウォンランドの場合
カジノが社会問題を引き起こした代表的な例として知られるのが、韓国にある国内で唯一自国民が入場可能なカジノ「カンウォンランド」です。
鉱山閉鎖後の発展のためカジノを誘致しましたが、現在は依存症患者で溢れ、質屋や消費者金融、風俗店が立ち並び、カジノでお金を無くした人が周辺のサウナ等に住み着く「カジノホームレス」が出現する等の社会問題となっています。
この治安悪化問題は、韓国でパチンコが禁止されたことで国内のギャンブル依存症患者が集中したことや、依存症対策が不十分であったことなど、様々な要因が積み重なって引き起こされたと考えられます。
治安の悪化を防ぐためにも、予測される事態に対して総合的に対策を行っていくことが求められます。
カジノ法案の問題点に対する主な対策
IR(カジノ)の成功と問題点の解決は切っても切れない関係にあり、政府もIR政策を進める上で具体的な対策に乗り出し始めています。
現時点でどのような対策が検討されているのかを見ていきましょう。
1.ギャンブル依存症対策
政府はギャンブル依存症に関して「ギャンブル等依存症対策基本法」を定め、各自治体に十分な対策を講じることを義務付けています。
これに従って各自治体はギャンブル依存症防止や治療に関する整備を整えなければなりません。
現時点で政府は、国内居住者のカジノ利用に対して下記のような対策を検討しています。
- 入場時にマイナンバーカードを提示
- 入場時、顔認証システムの導入
- 入場料6,000円を徴収
- 入場制限:週3回・月10回まで
- クレジットカードによるチップ購入を禁止(現金のみ)
- IR区域以外での広告の掲示を禁止
主に入場規制を強化することで依存症になることを防ぐという仕組みです。政府の規制内容については、今後もカジノゲームの種類など、詳細な項目については十分な検討が必要とされています。
さらに、厚生労働省は2020年度からギャンブル依存症の治療を医療保険の適用対象とする方針を決定しています。
ギャンブル依存症治療に公的医療保険を適用 厚生労働省が検討
他国のカジノ規制まとめ
国内にカジノを構える各国は、それぞれギャンブル依存症や犯罪対策のため規制を設けていますが、規制の幅は国によって大きく異なります。
現時点で検討されている日本の規制と、各国の規制をまとめました。
以下の表で比較して分かるように、日本のカジノ規制は現時点でも厳しいと言われており、今後も他国を参考に見直しが行われる可能性もあります。
|
日本 |
韓国 |
マカオ |
シンガポール |
アメリカ |
オーストラリア |
年齢制限 |
20歳以上 |
19歳以上 |
21歳以上 |
21歳以上 |
21歳以上
※州による |
18歳以上 |
自国民の 入場料 |
6,000円 |
7,500ウォン (約700円)※ |
無料 |
約100SGD
(約8,000円) |
無料 |
無料 |
本人確認 |
マイナンバー
顔認証システム |
国民IDカード |
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国民IDカード |
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入場回数 |
7日間で3回まで
28日間で10回まで |
月15回 |
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自己または
家族申請に よる入場規制 |
あり |
あり |
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あり |
あり |
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※韓国で自国民が入場可能なカジノは一箇所のみ
2.マネーロンダリング対策
現在日本では、マネーロンダリング対策の標準的な枠組みとして「犯罪収益移転防止法」や「本人確認法」で、金融機関やクレジットカード会社等に対して一定の義務を課しています。
しかしそれでも日本はマネーロンダリングやテロ資金対策を審査する国際組織・金融活動作業部会(FATF)からも「法整備が不十分である」と遅れを指摘されています。
そこで、IRの開業に向けてマネーロンダリング対策の見直しを行っており、諸外国の規制と比較して遜色ない対策が講じられるよう、「犯罪収益移転防止法」の規制への上乗せ等が検討されています。
見直しにあたっては、ラスベガスで知られるアメリカ・ネバダ州が参考とされています。
ネバダ州では連邦法の「銀行秘密法」に則ってカジノ事業者を「銀行以外の金融機関」とし、金融機関と同様に本人確認と、疑わしい取引記録の作成・保存・届出を行っています。
さらにカジノ事業者はコンプライアンスプログラムの策定も義務付けられており、内部統制度の策定や、疑わしい取引を発見するための従業員トレーニングなどが実施されています。
現在追加が検討されている主な内容は下記の通りです。
- カジノ事業者に内部管理体制の整備を義務づける(現在は努力程度)
- カジノ事業者にマネーロンダリング対策に関連する自己評価・内部監査の実施を義務づける
- 一定額を超える現金取引についてカジノ管理委員会への届出を義務づける
また、IR整備法の中でもマネーロンダリング防止のため、以下の条文が規定されています。
- 免許申請時の添付資料として「犯罪収益移転防止規程」を添付
- 「カジノ施設利用約款」に犯罪収益移転防止法に規定する取引時確認を記載
- 取引時確認の実施、取引記録の作成保存、疑わしい取引の届出など
- カジノ事業者による取引時確認等の措置等の適切な実施のための措置
- カジノ事業者によるチップの譲渡等の防止
- カジノ事業者によるチップの譲渡等の禁止の表示を義務づける
「IR汚職事件問題」が日本に及ぼす影響
2019年12月、IRを担当する内閣府副大臣、国交省副大臣を務めた秋元司議員が収賄容疑で逮捕される事件が起こりました。
これまでも依存症など様々な問題点が争点となっていたIR政策でしたが、現職議員の汚職が明るみに出て以来、更なる波紋を呼んでいます。
事件の概要
日本IR事業への参入を検討していた中国企業「500ドットコム」から現金300万円等の賄賂を受け取ったとして、元IR担当副大臣である自民党・秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕されました。
「500ドットコム」は、秋元議員の他に5名の議員に現金を渡したと供述しており、同時期に前防衛大臣の岩屋毅議員、法務政務官の宮崎政久議員、元郵政民営化担当大臣の下地幹郎議員(日本維新の会)、自民党の船橋利実議員、中村裕之議員にも、それぞれ100万円を渡していたとのことです。
各自治体への影響
一連の事件によるIRへのイメージの低下は避けられない現状となっている中、特に大きな影響を受けているのが北海道と大阪です。
北海道・留寿都村への影響
今回の汚職事件のまさに渦中となった候補地が北海道・留寿都村です。
「500ドットコム」は、北海道と沖縄へのIR進出を検討し、秋元議員に賄賂を贈り便宜を図ろうとした経緯があります。
さらに、留寿都村のIR計画を先導していたリゾート運営会社「加森観光」の会長・加森公人氏も、秋元議員の留寿都村への観光旅行費の一部を負担したとして贈賄容疑で在宅起訴されています。
留寿都村の誘致の申請主体となる北海道は、2019年末に今回の区域認定への申請見送りを表明ししつつも、今後の申請機会に向けて誘致検討を続けたいとしており、その際は優先としていた苫小牧以外の候補地も視野に入れたいとコメントしています。
事件の渦中となってしまった留寿都村は、再申請の機会があるとすれば計画が白紙からとなってしまう可能性も考えられます。
留寿都村の場谷常八村長は、「このような事件が起き、ショックで遺憾。村のイメージダウンに繋がった」と強い憤りをあらわにしています。
大阪府市への影響
秋元議員以外に献金を受けていた疑いのある議員として日本維新の会の下地幹郎議員の名が挙がっており、日本維新の会の代表・松井一郎氏が市長を務める大阪も影響を受けています。
大阪府市は2025年の開催が決定した万博に合わせたIR誘致を掲げ、全国の候補地の中でも先頭を切ってIR誘致を進めています。
IRを成功させたい松井市長は、下地議員を日本維新の会から除名処分とし、さらに事業者に接する際の規則を改正しRFP期間中の面会を禁止するなど、クリーンなイメージの徹底に努めています。
スケジュールへの影響
事件後も政府はこれまで通りにIR政策は進めるとしつつも、世間の風潮や野党の動向などからスケジュールに影響が出始めています。
野党4党は合同でIR整備法等の撤廃を要求する「カジノ禁止法案」を提出。事件や野党の一連の動きを受け政府は「世論を見極める必要がある」として、1月下旬を予定していた基本方針の策定を3~4月に延期する意向を発表しています。
区域認定の申請期間は延期せず、当初の予定通り2021年1月4日~7月30日と発表されていますが、基本方針の遅れによるしわ寄せが来ないとは言い切れない状態です。
IR誘致を進めている横浜・大阪をはじめとする各自治体は、事件について「議員個人の問題でIRには関係ない」と従来のスケジュール通りに誘致を進める方針を示しています。
日本IRの今後のスケジュールについて詳しくはこちら
日本IRの成功は問題解決なしではあり得ない
ここまで解説してきたとおり、カジノ法案の先には様々な問題が生まれる可能性がありますが、カジノ法案自体に問題があるわけではありません。
実際に社会問題になった事例などを見ると、ギャンブル依存症・マネーロンダリング・治安の悪化などの問題に対して十分な対策が取られているかどうかが明暗を分けていることがわかります。
日本IRの開業にあたって、問題に対して対策を取ることは法で義務付けられています。
しかし最終的に日本IRが吉と出るか凶と出るかは、これから体制を整えていく政府・自治体の動きに懸かっていると言えるでしょう。
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